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第2回 そのどこがエコなの?

ある地方へ講演に出かけたとき、知人から「エコ住宅ができたので、ぜひ住宅を見ていってくれ」と言われた。ぼくは建築が専門ではないが、こんな活動をしているから否が応でも目は肥えてくる。だから見せられても「ほめられない建物だったら」と思うと気乗りがしないのだ。むしろ環境問題の方で知られているから、「エコ住宅」という視点だけで健康を全く考えていない住宅だったら困るなと思って、やんわり断り続けていた。  

しかし「道の途中だから、ちょっと寄ってみましょう」と連れて行かれてしまった。悪い予感は的中した。玄関を開けるなり、『いらっしゃ~い』と化学物質のガスのお出迎え。ホルムアルデヒドなどの臭いだ。室内に入ると一層ひどくなる。

 『えっ? えっ? なぜみんな平然とした顔してるの?』と思う間もなくご説明が始まった。 

「この家は太陽角度を計算して冬には光を取り入れ、夏の直射日光は遮断するように建てられた住宅です」

 『それって、当たり前じゃないの? 計算難しくないんだし』 

「グラスウールの断熱材をたっぷりと使って冬場でもほとんど暖房なしでも暮らせます」

 『っていったって、この臭いじゃ換気しないと死ぬよ~』 

「堅牢さを確保するために最新技術のラミナーを使い、壁倍率も高く震災にびくともしません」

 『ラミナーって集成材だろ? 接着剤で貼り合せたあれ? びくともしないって、オレすでにぐらぐらなんだけど』
ところがその家には若い夫婦と幼い赤ん坊がいた。家族一同、幸せそうにこの空気の中で笑っている。いや、ここダメでしょ。 

「大変結構なお住まいですね。先を急ぐものですから、これで失礼します。お邪魔いたしました」  

努めてにこやかに、本当に自分の言葉なんだろうかと思うほど、空虚な挨拶をしてそそくさと退散した。いやはや気の毒だ。建築士とは「他人のカネで自分の作品を作るヤツ」と悪口言われたりするが、その典型のような家だ。こんな人体実験みたいな家を作るんなら、自分のカネで自分の住まいにしろよと思う。  

オランダでエコ建築の大学を見学したときもそうだった。天然ゴムに混ぜる可塑剤に、むちゃくちゃ有害で臭いヤツがある。そのひどい臭いのおかげで、無神経男のこのぼくが、「化学物質過敏症(CS)」の人の気持ちを一瞬にして理解したほどだ。なんとその後二日間は頭痛が消えなかった。集中力も落ちてしまってあまり考え事ができなくなる。 

『エイリアンってのは口がのべーっと前に伸びていたけど、臭くって吐き出したくてあんな顔になったのかなぁ』ってベッドの中で考えていた。
天然住宅では可能な限り化学物質を使わない。「99.9%だ」と胸を張るが、『なんで100%じゃないの?』と聞きたくなる。そこで聞いてみた。すると電灯のつなぎの部分だとか窓周囲のパッキンだとか…。『いや、それって「建築した部分」じゃないじゃん、100%使わないって言えば?』と思う。それでも今なお99.9%のままになっている。  

しかも木材は高温乾燥していないし、それ以前に防カビ剤のプールにも漬けてない。だから家の中は森の中の匂いみたいだとよく言われる。

 『だけどね、この匂いは森ではなくて木材の青い匂いなんだよな。竹林に入ったって青竹の匂いはしないでしょ?』なんてちょっと思うけど、ま、イメージとしてはそんな感じなわけだ。そのおかげで、天然住宅の見学会だけしかしていないと、その匂いが当たり前になっちゃうんだ。だから不覚にも家具屋さんや他の住宅に入った時に、内心ではエイリアンの顔になっちゃう。  

住宅にもし一つだけ「存在の条件」を持たせるとしたら、一切の化学物質を使っていないことなんじゃないかと思うんだ。
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