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第61回 家が変わると暮らしが変わる

家が変わると暮らしが変わる

「家が変わると暮らしが変わる」
これは天然住宅の建て主さんが言った言葉だ。そうだと思う。でも実際に天然住宅を建てた自分としては、何が変わったのだろうか。ちょっと考えてみた。

まず壊れないし長持ちする建物だから、余分なことに悩まされることがなくなった。自分が死んでからも誰かが使うだろう。長年のつきあいになるのだから、先々の使い方を考えるようになった。それは設計にも生かされてくる。地方なら「虫対策」は重要だし、オフグリッドで電気を自給するのも当たり前のことになるだろう。そうするとバッテリーの置き場なども考えておいた方がいいし、太陽温水器との連結も、ペレットストーブや燃料の保存場所も考えた方がいい。百年を超える家を目指すのだから、未来の時点でも不足のない住まいにしたい。そのための「余白」も備えておいた方がいい。「次の建て替えのときに」とか、「どうせ建て替えるのだから」と考えるのは資源の無駄だ。

「新築時が最高」にしない

そんな住まいに必要なのは、まず将来の機能を受け容れられる設計だ。今の家は「新築した時が最高の状態」になっている。しかし家は本来、住みながら進化していくものだ。部屋を細かく分けることは後からでもできる。しかし逆に細かい部屋を大広間に変えることは構造的に困難だ。

我が家は細かく仕切るのをやめた。広いスペースが中心だから、必要なら後から仕切ればいい。窓には障子なり「断熱内窓」なりをつけられるように、先に鴨居と敷居にスペースと溝をつけておいた。予算上の問題もあったが、何より「新築時が最高」にしたくなかったのだ。敷地に対する建物の大きさもそうだ。160坪に13坪総二階の建物、それは次に必要になった時の備えでもある。余白を持ったスペースが次の進化を可能にする。

窓枠に敷居のみを準備した

有害化学物質を使わない

何より良かったのは有害化学物質を使わなかったことだ。天然住宅なら当たり前だが、これが居心地の良さの最大ポイントだ。幼い娘は、家ができると最初に床に寝転んだ。寝転がりたくなる家は居心地の良さの証明だと思う。防カビ材に漬けていない木材、高温で乾燥させていない木材だから、木の精油分が残っていてダニも虫も寄らずよく眠れる。空気をたくさん含むスギなので、裸足で歩いても冷たくない。その家に住んでから、臭いに敏感になった。以前なら買ったかもしれない家具も、近寄ることすら気が進まない。
家が未来を実現するための装置だとしたら、暮らし方が変わるのも当然な気がする。

仕切りを設けない居室
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