第27回 「未完」の家

「未完」の家

 天然住宅が次に考えているのは「未完」の家だ。普通に考えると家は新築時にピカピカで人に見せびらかし、その後は経年劣化で痛んでいく。それでいいだろうか。家はむしろ進化し続けるものであるべきだ。たとえば当初の室内は木材がそのまま見える「顕わし」になっていて、その後に余裕ができたら壁に珪藻土や漆喰を塗って大壁(柱が見えない壁のつくり)にしてもいい。「なげし(長押)」や「どうぶち(胴縁)」をつけてもいい。

 室内に荷物が多かったら大変だが、少なければ自分で養生して(汚れないようにマスキングすること)、壁を塗っていくのも楽しいかもしれない。入居するときが一番美しくて、次第に汚れて劣化していく家というのは、なんとも寂しい気がする。

 我が家では、窓にもう一枚の木製サッシ(断熱内窓)をつけるスペースは作ってあるが、まだ内窓そのものは入れていない。断熱効果の高い「Low-Eガラス」と吸湿性の高い建て方の結果を見てからでいい。それで寒ければ入れればいい。部屋を区切る鴨居は用意してあるが、襖(ふすま)はまだ用意していない。必要だったら設置する。そんな未完成の住宅は失敗が少ないし、費用も安上がりだ。「未完」は可能性の別な表現でもあるのだ。

夢のマイホームのなれのはて

 よく住宅のショールームに行くと、広い部屋に大きな応接セット、洋間にはスタンドライトとベッド、広いキッチンには未使用の(当たり前だが)シンクと大きなキャビネットがついている。実際にキッチンのキャビネットに土鍋など入れようものなら、あっという間にカビる。土鍋屋さんに聞くと、保存に最も適さないのがキッチン下のキャビネットだそうだ。だから我が家のキッチン下は、扉もなくステンレスの空間だけになっている。

 部屋を広く見せる洋間もいいが、ベッドだのスタンドライトだのは出しっぱなしにしなければならない。建てる夢を見ているときにはそれでいいが、実際に住んでみて、しかも子どもが走り回るようになると夢は瓦解する。あちこちに万国旗のように洗濯物がぶら下がり、子どもの落書きとシールが部屋にアクセントを添える。子どもはベッドに一緒に寝たがるが、ベッドは狭すぎるし、ベッドがあるために布団が敷けない。

 ちゃぶ台、布団と押入れ、座布団だったらしまえるのに。青い目をしながら「ナント日本家屋ハ合理的ナノデショー」と言いたくなるほどなのだ。

テレビデオ的家具?

 造りつけられた家具や調度品は、便利そうだけど邪魔になるし変更が効かない。昔あったテレビデオと同じだ。テレビとビデオが一台になっていて便利そうだが、それぞれの寿命が違うので片方の機能だけしかなくなったら使いにくくなる。ビデオが壊れて不便だからと、テレビデオの隣にビデオを置く。今度はテレビが見づらくなってその隣にテレビを置く。テレビデオ・ビデオテレビになってしまう。

 最初から「完璧にしよう」なんて考えない方がいい。新築のときが一番良くて、ずっと悪くなり続ける家なんて良くない。むしろ次第に良くなっていく未完の家の方がいいと思うのだ。
未完の家
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