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第13回 低周波騒音問題

エコキュート・トラブル

ある方が住宅を建てるための土地探しをしていて、やっと見つけた土地があった。やっとのことで条件が折り合える場所だった。ところが深刻な問題点があった。その土地の隣の家にエコキュートが設置されていたのだ。このエコキュートなどの室外機が、都会最大の低周波騒音発生装置なのに。

低周波「騒音」と言うが、実際には騒音の種類ではない。耳に聞こえる可聴音域の下にあるから、一般的な人には聞こえるわけではないからだ。もちろん可聴音域の騒音を出していることもある。その「騒音」問題なら防振ゴムを入れて、さらに防音を施せば聞こえなくできるかもしれない。ところが可聴音域の下の低周波騒音の本体は、圧迫感や心地の悪さぐらいでしかわからない。

騒音に分類しにくい低周波問題

ぼくはかつて役所の公害対策課に勤めていたことがある。深夜にカラオケの騒音を敷地境界線で測定したりするのも仕事のひとつだった。まれに警察官に出くわして職務質問を受けることもあった。なんとも役所らしくない仕事だ。そこで起きた低周波騒音は、まるでポルターガイスト現象のようだった。周波数が低い騒音では、その波長の長さに合ったものを振動させる。ある家では障子だけがガタガタと揺れ、その振動のせいで仏様に立てたロウソクが倒れて火事になりかけた。波長の長さが寸法に一致したときや、その整数倍だったときに共振現象を起こすのだ。アメリカの長い橋がちょうど地震の波長と一致したために、橋が崩れ落ちるという事故もあった。こっちでピアノを鳴らすと、反対側にあるギターが反響する、それと同じ現象だ。

低周波騒音は振動によく似ているから、防振マットを使えば良いと勘違いしがちだが、低周波騒音を起こすのはほとんどが空気振動だ。だからコンプレッサーの排気などが低周波騒音の原因になる。厄介なのは「距離減衰」をあまりしないことだ。音なら距離を話せばどんどん音圧が減っていく。ところが低周波騒音では、距離を離してもなかなか減らないのだ。

原因を調べていったら遠くの道路からの騒音だったこともある。しかも感じる人、感じない人の差も大きい。この測定機がとても重かったのも測定が大変だった事情のひとつでもある。ぼくの勤めていた区役所には測定機があったが、多くの自治体では県に一台しかないということもザラだ。レンタルすると一日8万円もする。

都会のエコキュート問題

でもぼくが公害対策課にいた時代には、エコキュートなどはなかった。しかし今ではPRのせいでよく設置されている。しかも一晩かけて翌日のお湯を沸かせばいいので、深夜にゆっくりと時間をかけてコンプレッサーが駆動する。その騒音を可聴音域より下にしているせいで、この問題が都会に広がり続けている。そのため政府は2003年から、「低周波音問題対応の手引書」を作成し、「評価基準」を設けている。しかし個人差が大きいことと個人の思い込みも多いため、規制基準とはしていない。

結局のところ、住む人の判断にゆだねるしかなかった。こちらから何か判断につながる情報を提供すれば、後でトラブルの原因を作ることになるからだ。今回の案件では本人がキャンセルした。それはそれで賢明な選択であったと思う。低周波は距離を離しても落ちにくく、気にしながら暮らせば感じられるようになるかもしれない。

低周波問題は立証が難しいが、エコキュートの設置が新たなトラブルを作っていることだけは確かだ。