一方でくりこま木材の大場さんたちと一緒に、山のコストを下げながらさらに良い木材を提供する試みを続けている。
大場さんが「優さんが連れてきた牛です」と紹介するところの牛たちは、
食べてもらうことでコストのかかる下草刈りをしてもらうためにいる。
ぼくがドナドナみたいに連れてきたわけではないが、手配はしたし牛の放牧をしたいと思っていたのも事実だ。
でもその話をされるたびに、ぼくの頭の中には『牛の手綱を引いた田中優』の姿が浮かぶ。
でもその牛のおかげで下草刈りのコストは五分の一になり、牛の落し物のおかげで苗木はよく育つ。
もうひとつ、大場さんのところでは、伐ってきた木材を「防カビ剤のプール」に漬けない。
というか、防カビ剤のプールそのものがない。
知られていないが通常の木材はカビがクレームになるために、最初に防カビ剤に漬けてしまうのだ。
「無垢材」とは呼ばれていても、実際には防カビ剤漬けだ。
くりこま木材では防カビ剤を使わない代わりに「くんえん乾燥」する。
木材を煙で燻すことでカビを生えにくくさせる。
まるでスモークサーモンみたいに(食べられません、念のため)。
その木材を大工の手刻みで「仕口・継ぎ手」を掘っていく。
木を組んで建てるためだ。木は組んで使えば長持ちするが、金属で固めると「割れる、腐る」で長持ちしなくなる。
しかも機械では組む木材の「のりしろ」の長さがせいぜい3センチ程度だが、
手刻みでは10センチ以上もある。
木材同士が一体化して、おかげで強いのだ。
確かにおカネを出すのはつらい。
どうしても無理なこともある。
でも可能になる条件を考えることで解決したいのだ。
誰かのものを買い叩けば、次には必ず自分のものが買い叩かれる。
「どん底への競争」ではなく、互いに幸せになれる競争にしたいのだ。